Substackは2026年2月、69万ユーザーのデータを失った
私はSubstackを使い続ける。2026年2月の事件があっても
※私自身が被害に遭ったわけではないので、安心して読み進めてください。今回はセキュリティ意識を高める為、あえてこのようなメールを送らせていただきます。ぜひ最後までお読みください。
API scraping攻撃の手口と、ニュースレター運営者が翌日から取るべき対策
2026年2月6日、SubstackのCEO Chris Bestから全ユーザーに直接謝罪メールが届いた。本文は短く、しかし致命的だった。約69万7千ユーザー分のメールアドレス、電話番号、内部メタデータが、外部からアクセスされたまま放置されていた。
財務データは無事、パスワードもクレジットカードも漏れていない。Substack側はそう繰り返した。
それでも、私はこの事件を「軽微な事故」として扱わない。理由は二つある。一つは、攻撃が実行されたのは2025年10月であり、検出は4ヶ月後だったという時系列。もう一つは、流出した情報の性質だ。
4ヶ月の沈黙が意味するもの
2025年10月、何者かがSubstackのAPIに対してscraping攻撃を仕掛けた。「scraping」というのは、APIを連続して叩いて、本来一度に取り出せない情報を大量に抜き出す手口だ。Substack側のAPIには脆弱性があり、攻撃者はそれを使ってユーザー情報を約69万7千件抜いた。Substackは2026年2月にこの異常を検出し、システムを修正し、CEOが謝罪メールを送った。
問題は、攻撃から検出までの4ヶ月だ。
セキュリティ業界では「breach detectionは時間を要する」と言われる。実際、これは特別に遅い検出ではない。MITREのレポートを見ても、世界の平均的な侵害検出期間は数ヶ月単位だ。多くの侵害は、攻撃が止まった後に検出される。サイバー攻撃というのは、警報が鳴る種類のものではなく、後から痕跡を辿って気付く種類のものだ。
これが何を意味するか。攻撃者は4ヶ月間、Substackから抜いたデータを「自由に処理する時間」を持っていた。データは既に流通しているか、別のデータベースと統合されているか、あるいは静かに次の攻撃の準備に使われている。
「現時点で悪用の証拠はない」とSubstackは書いた。これは事実関係を述べているだけで、未来を予測しているわけではない。私はこの一文を、額面通り受け取ることを推奨しない。
メールアドレスと電話番号で何ができるか
流出した情報は、メールアドレス、電話番号、内部メタデータ。財務情報は無事。
「財務情報は無事だったから大丈夫」と読む人がいる。これは、サイバーセキュリティの初心者がよく間違える解釈だ。
財務情報の流出は、即座の被害(不正利用)を生む。メールアドレスと電話番号の流出は、即座の被害は生まない。代わりに、「時間をかけた精巧な攻撃」の弾丸になる。
精巧な攻撃の典型例を書く。
ある日、メールアドレスに「Substackから」と名乗るメールが届く。差出人は本物のSubstackのドメインに似せた偽ドメイン。「あなたのアカウントに不審なアクセスがありました。下記のリンクからパスワードを再設定してください」と書いてある。リンクは偽サイトに繋がっており、そこで入力したパスワードが盗まれる。
これがフィッシング(phishing)だ。
別のパターン。メールアドレスから推測した電話番号に、「Substack技術サポート」を名乗る電話がかかってくる。「あなたのアカウントに侵入の試みがありました。すぐに認証コードを送るので、口頭で読み上げてください」と言われる。読み上げると、それはSubstackやGmailの二段階認証コードで、攻撃者はユーザーアカウントに侵入する。
これがソーシャルエンジニアリング(social engineering)だ。
どちらの攻撃も、攻撃者が「メールアドレスと電話番号がSubstackに登録されている」という事実を知っているからこそ成立する。普通の不審メールなら警戒できる。「Substackから」というコンテキストが正しいと、警戒心が下がる。
財務情報の流出より、メールアドレスと電話番号の流出のほうが、長期的には恐ろしい。これは私の意見ではなく、サイバーセキュリティの実務家の標準的な評価だ。
「絶対安全なプラットフォーム」は存在しない
ここで一歩引いて考えたい。
「Substackが信用ならないから別のプラットフォームに移ろう」という発想は、ほぼ間違いだ。理由を説明する。
過去5年で大規模な情報流出を経験していないプラットフォームを探すのは難しい。Facebook、X、LinkedIn、Yahoo、Adobe、過去にすべて流出している。Substackだけが特別に悪いわけではない。情報流出はインターネットインフラの構造的な問題であり、どのプラットフォームを使っても、ある確率で起きる。
「Substackは危険だからやめる」と判断する人は、論理的には「インターネット全体をやめる」しかない。それは現実的でない。
正しい問いは、「Substackで配信を続けながら、どう自己防衛するか」だ。
Substack利用における5つの対策
ここから具体策を書く。私自身がやっていること、私のクライアントに勧めていることだ。
第一に、subscriber listを月1回CSV形式で書き出してローカルに保存する。これはSubstackの管理画面、Settings > Import/ExportでCSVを生成できる。月に1度、5分の作業だ。これをやっていれば、Substack側でアカウントが停止された時も、データ漏洩で混乱した時も、自分の手元にはリストが残る。月次バックアップは習慣化しないと続かない。スマホのカレンダーに毎月1日のリマインダーを入れる。
第二に、読者との「Substack外の連絡手段」を確保する。具体的には、自分の独自ドメインのメールアドレスを、Welcome emailに明記する。「いつでも返信してください、私が直接返事します」と書いておく。これをやっておくと、Substackが何かの理由で使えなくなった時、読者と直接連絡を取る経路が生きる。Substackのメッセージ機能だけに依存していると、Substackが落ちた瞬間に読者と切れる。
第三に、Substackからの不審メールに対する読者教育を、自分のニュースレター内で一度行う。「Substackからのメールに見える詐欺メールが今後増える可能性があります。私のメールから来たものか必ず差出人を確認してください」と。これは保険であり、同時に書き手としての誠実さの証明にもなる。読者は「この書き手はリスク管理ができている」と感じる。
第四に、自分自身のSubstackアカウントに二段階認証を設定する。Settings > Securityから設定できる。これは個人の防御策であり、書き手が自分のアカウントを乗っ取られて、読者に詐欺メールを送りつけられる事態を防ぐ。書き手のアカウントが乗っ取られれば、その被害は読者全員に及ぶ。
第五に、Substack上の本文・プロフィール・コメントに、個人を特定する情報を必要以上に書かない癖をつける。住所、家族構成、勤務先の社内情報、子供の学校名、こうした情報は将来のsocial engineeringの弾丸になる。書き手は知らず知らずに自分の情報を本文に織り込みがちだ。一度自分のプロフィールと過去5本の記事を読み直し、消せる情報は消す。
中小企業オーナーへの追加の論点
私の読者には、中小企業オーナーや個人事業主が多い。そんなあなたに対しては、追加で伝えたいことがある。
自社の業務でSubstackを使う場合、流出リスクは「個人のリスク」ではなく「事業のリスク」に変わる。顧客のメールアドレスを集めたリストがSubstack上に蓄積されていて、それが流出した場合、顧客への通知義務が生じる可能性がある。
日本の個人情報保護法は、5,000件を超える個人情報を扱う事業者に対して、漏洩時の通知義務を課している。Substackが直接の漏洩主体だとしても、書き手側もリストの管理責任を問われる場面が出てくる。これは法律家に確認すべき領域だが、知らずに使っていると、ある日突然問題になる。
「個人のニュースレターだから関係ない」と言い切れる人と、「事業として運用している以上、事業リスクとして扱う必要がある」人で、対応が違う。自分がどちらに属するか、一度真剣に考えるタイミングだ。
このプラットフォームを使い続けるかどうか
私はSubstackを使い続ける。2026年2月の事件があってもだ。
理由は、これがSubstack固有の問題ではなく、インターネットインフラ共通の構造的問題だからだ。Substackから別のプラットフォームに移っても、同じリスクは別の形で必ずある。
そして、Substack側の対応は、悪くなかった。CEOが直接謝罪し、影響範囲を明示し、システム修正を完了させた。「絶対安全」を約束するのではなく、起きたことを率直に伝える対応だ。完璧ではないが、最低限の誠実さは保たれている。
リスクをゼロにする方法はない。リスクの存在を理解しながら、対策を取って使う、これがインターネット時代の標準だ。
書き手として求められているのは、「不安に駆られて逃げる」ことでも、「気にせず使い続ける」ことでもない。リスクを正しく理解し、できる対策を取り、読者にも適切に伝える。それが、メディアに関わる人間の責任だ。
私のクライアントには、上記の5つの対策を全部やってもらっている。あなたも今日、subscriber listのCSV export一つ、いますぐやっておくといい。次の漏洩が起きてから慌てて取り出すよりも、月に5分の習慣を作っておく方が、ずっと安いコストで済む。





「車は危ないから乗るのをやめる」というのと一緒ですよね。
何事も絶対はない。
こんな当たり前のことが分からない人が世の中には結構いるんですよね(^^;
私も防衛策として実施いたします!