サブスタックは「ユーザーが増えてから」では遅い。日本人が少ない今こそ始めるべき、先行者利益と消えない資産の話
「まだ顧客になる人がいない」という判断は危険である。有料購読500万件に達した英語圏の最新データと、検索・AI時代のメディア構造から、いま投じる努力が無駄にならない理由を検証する
サブスタックを勧めると、必ず返ってくる言葉がある。
「まだ日本にユーザーが少ないでしょう。自分の顧客になるような人が、あの中にいるとは思えない」
この判断は逆だ。はっきり言うけれども、この思考である限り、先行者利益は絶対に取れない。
ユーザーが少ない今だからこそ、サブスタックに取り組む価値がある。私はそう考える、いつもその思考で先行者利益を獲得してきた。
ユーザーが増えるのを待ってから参入する。一見合理的に聞こえるこの姿勢は、プラットフォームというものの構造を見誤っている。今日はその構造を、英語圏の数字と事例で具体的に解きほぐす。
先行者利益は「ユーザーが増える前」にしか取れない
プラットフォーム上のポジションは、椅子取りゲームに似ている。音楽が鳴っている間、つまり市場がまだ小さく競合が薄い間に座った者が、その後の成長をまるごと享受する。市場が立ち上がってから参入した者は、すでに確立されたプレイヤーの横で、ゼロから信頼とアーカイブを積む戦いを強いられる。
英語圏に分かりやすい実例がある。Lenny Rachitskyは2019年、有料ニュースレター市場がまだ小さかった時期にサブスタックで「Lenny’s Newsletter」を始めた。プロダクトマネジメントという専門領域で早期にポジションを取り、プラットフォームの成長と併走する形でカテゴリの標準になった。現在は年間収益7桁ドル、日本円で億を超える規模のパブリケーションである。彼が「ユーザーが増えるのを待って」いたら、この席は別の誰かのものだった。
私自身、この構造を身体で知っている。Facebook黎明期、「実名制SNSは日本で定着しない」と言われていた時期に専門メディアを立ち上げ、月間数百万PVまで育て、2011年には書籍を出した。あのとき「日本のユーザーが増えてから」と待っていた同業者は、増えたあとの飽和した市場で埋もれた。プラットフォームの黎明期に張った者と、流行を確認してから動いた者の差は、その後10年の仕事の質を決めた。サブスタックで今起きているのは、あれと同じ構造である。
数字で見るサブスタックの現在地。成長は始まっている
「まだ小さいプラットフォーム」という認識自体、すでに古い。英語圏の最新データを並べる。
アクティブ購読は5,000万件。うち有料購読は500万件を超え、2024年の200万件から2年足らずで2.5倍になった。収益を上げているパブリケーションは2026年4月時点で約10万。2025年5月の5万から、わずか1年で倍増している。書き手が2025年に得た総収益は4億5,000万ドル。2025年7月のシリーズC資金調達で、Substack社の評価額は11億ドルに達した。
そして注目すべきはこの数字だ。収益化している10万パブリケーションのうち、約3万は米国外である。非英語圏への拡大はすでに始まっている。だが日本語コンテンツは、この巨大な成長の中でまだ極端に少ない。つまり、英語圏では埋まりつつある椅子が、日本語圏ではほぼ空いたまま並んでいる。
メール開封率の平均は44%。一般的なメールマーケティングの約2倍である。読者の質がまったく違うプラットフォームだということが、この一つの数字から読み取れる。
検索エンジンとLLMO。ユーザー数と無関係に働くサブスタックの効果
ここからが本題だ。サブスタックの価値は、プラットフォーム内のユーザー数だけで決まらない。公開した記事は通常のWebページとしてGoogleにインデックスされる。Substack社自身が公式ヘルプで、全パブリケーションが検索エンジンにインデックスされ評価されるよう裏側で技術処理を行っていると明言している。
各パブリケーションは独自のサブドメインとして、自らのドメイン評価をゼロから積み上げていく。記事が増えるほど、被リンクが増えるほど、Googleからの信頼が蓄積される。これは時間の関数だ。早く始めた者の1年分のアーカイブに、後発が一夜で追いつく方法は存在しない。
AI検索、いわゆるLLMOについては、正直に不都合なデータから書く。米Zeno Groupが2026年初頭に170万件のAIプロンプトを分析した調査では、AIの回答に引用されたコンテンツのうちサブスタック発は全体の0.07%にとどまった。ペイウォールで本文が隠れる記事が多いこと、メール中心の構造が理由とされる。
このデータを見て「やはりサブスタックはAIに拾われない」と読むのは浅い。私の読み方は二つある。
第一に、クローラーが見られないのはペイウォールの内側だけだ。無料公開した記事は通常通りクロールされ、検索エンジンにもAIにも読まれる。つまり無料記事の設計次第で、この弱点は最初から回避できる。
第二に、引用率0.07%という数字は、この領域がまだ空白だという証明でもある。生成AIに「この分野の専門家は誰か」と聞かれたとき名前が挙がる側に回る競争は、サブスタック上ではまだ始まってすらいない。日本語なら競合はさらに薄い。質の高い無料記事を公開で積み続けた書き手が、数年後のAI回答の中に立っている。
私はいま、サブスタックでNotesを毎日書き、ニュースレターを週次で配信している。この更新は読者に届くと同時に、GoogleとAIに対して「この人物はこの領域について継続的に発信している専門家である」という証拠を積み上げる作業でもある。ユーザーが少なかろうが多かろうが、クローラーは回る。この効果はプラットフォームの流行と一切関係なく働く。
メールリストという、何があっても消えない資産
もう一つ、決定的な事実がある。サブスタックは購読者のメールアドレスを、書き手が完全に所有する設計になっている。リストはいつでもエクスポートできる。この構造を持つ大手プラットフォームは他にほぼ存在しない。
SNSのフォロワーは、アルゴリズムの仕様変更ひとつで届かなくなる。アカウント凍結ひとつで消える。だがメールアドレスは手元に残り、読者に直接届く。開封率44%という先の数字は、その直接性の価値を示している。
ここから導かれる結論はシンプルだ。サブスタックを更新し続ける努力には、下限が保証されている。仮に最悪のシナリオ、つまりサブスタックが日本でまったく流行らなかったとしても、手元には検索エンジンに評価されたコンテンツ資産と、直接届くメールリストが残る。この二つは他のどのプラットフォームでも、自分のWebサイトでも、そのまま使える。努力が消える構造になっていないのだ。
今やるべきことは二つ。コンテンツ量と、最初の火種
では、ユーザーが少ない今の時期に何をすべきか。答えは二つに絞られる。
第一に、ポジションを確立するだけのコンテンツ量。検索エンジンもAIも、評価するのは蓄積である。アーカイブの厚みは、後発に対するそのまま参入障壁になる。流行ってから参入する者は、この蓄積をゼロから、確立された競合の横で始めることになる。
第二に、最初の火種となる購読者。サブスタックにはNotesと推薦機能というプラットフォーム内の発見ネットワークがあり、アプリ内では毎日100万件以上の投稿が新しい読者に発見されている。このネットワークは、購読者がいるほど回転が速くなる。初期の数十人、数百人の購読者は、単なる読者数ではなく、ネットワーク内での露出の起点である。火種が小さいうちに確保した者だけが、プラットフォームの成長という追い風を受けられる。
サブスタックが日本で流行るかどうかは、実はどちらでもいい。流行れば先行者としてポジションを刈り取る。流行らなくても、検索資産とメールリストが手元に残る。どちらに転んでも回収できる投資を、「まだユーザーが少ないから」という理由で見送る手はない。
椅子はまだ空いている。座るなら今だ。




